2回めの抗癌剤
左のリンパを手術しているので、傷をつけられない。なので注射も右腕にしか点滴用の注射の針をさせない。上の方から血管を探していって、失敗すると少しずつ下に下る。だいたい失敗されて、いつも手首だ。親指の付け根のことろで、とても痛い。
血管が細い人は首の中にポートと呼ばれるものを入れる、血管とつながっていて、そこに抗癌剤など注入する。毎回血管を探さなくても良いように。
腕に刺した管をつけっぱなしの人もいる。胸のチューブが不愉快だったので、私はそれは嫌だと言った。毎回痛い思いをするけれど、しょうがない。
大体1時には終わる。まず点滴。 11時頃からアドレアマイシン、12時から1時までシクロフォスミド。今日も鼻の奥がツーンと痛くなった。海で鼻から水が入った感じだ。
その夜は全然眠れなかった。 まだ吐き気は来ていなかった。翌日も新しい薬が効いて吐き気はゼロだった。これは嬉しい。
親友に電話をした。ひさしぶりの大きな明るい声に元気をもらった。とってもうれしかった。
シャワーをすると両方の手のひらに、指に、髪が絡みつく。背中をシャワーのお湯とともに流れていく。わかっていたけれどやはり悲しかった。これから抜け続けていくのだろう。
夫が病院に白血球を増やす注射を取りに行った。抗がん剤中は血液中の白血球が減少する。そうすると免疫力が下がり、少しの菌でも感染するのだ。この週者を抗癌剤の後10本打つ。
抗癌剤は全部で8回したので、この頃お腹に80本注射をしたことになる。
今回は吐き気はないが具合が悪くずっと横になっている。精神的にも落ち込んで涙がぼろぼろ流れる。
夫と息子が日本に行くのがとても不安だ。離れたくない。
食欲が全く無いのに顔が丸くなってくる。この頃素麺とつゆにしょうがをすり下ろしたものが一番食べやすかった。 水も変な味なのでスプライトをガブガブ飲む。
夫がお腹に注射をしてくれたが痛かった。これを毎日自分でするのかと思うと悲しくなる。
後数日で日本へ行ってしまう夫と息子。3週間弱で帰ってくるけれど、とても不安で寂しい。
そして2回めの抗癌剤から5日目。
バラバラとものすごく髪が抜け始める。 あまりにもまばらになったので、コットンのターバン風の帽子を被る。それを見て息子は泣き始めた。
夕食後、髪の毛を全部そってしまった。 夫に手伝ってもらった。
毎日抜け続けるよりは良いと思ったけれど、やはり涙がボロボロ止まらなかった。
鏡に写った顔はおじさんのようだ。 それなのに夫は
「かわいいね、生まれたてのベイビーみたいだよ」と言ってくれる。やさしい人だ。
「うそつき」と笑い、そしてもっと涙がこぼれた。
「じゃあ、僕も剃るよ、一緒だよ」と自分の髪の毛も剃ってしまった。
その優しさに言葉では言えない大きな愛情と絆を感じた。これから日本へ行ったり、トレーニングもあるのに。一瞬の躊躇もなくバリカンで髪をそってしまった。
その気持ちに答えたい。絶対に元気になりたいと思った。
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